本当に正しく理解できていますか? JIS規格の荷扱い指示マーク一覧

2024 2/05
本当に正しく理解できていますか? JIS規格の荷扱い指示マーク一覧


前回の記事では、荷扱い指示マークに関する注意点についてご紹介しました。

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今回は、JIS規格に入っている荷扱い指示マークを実際に見ていきたいと思います。

目次

規格化されている荷扱い指示マーク一覧

No.1 重心位置

意味 貨物の重心位置を示す。
使用上の注意
・重量物には表示必須。
・可能であれば6側面、少なくとも4側面に表示すること。6面に表示することで重心位置がわかります
・正しい位置に表示すること。

重心位置のマークは、安全な作業のためにクレーン等で吊り上げたりする重量貨物に表示されることが多いです。発電機やエンジンなどの大型貨物に使用されています。

No.2 吊り位置

意味 貨物を吊り上げる場合にスリングをかける位置を示す。
使用上の注意
・重量物には表示必須。
・相対する2面に表示する必要がある。

このマークでは鎖がかたどられていますが、実際にはワイヤーやロープ(スリングベルト)なども用いられています。なかには、スリングをかける位置を補強していることもあるので、正しい位置にスリングをかけないと、箱自体が破損してしまうケースもあります。No.1の重心位置とともに使用されることもあります。

 

No.3 壊れもの、取扱注意

意味 貨物の中身が壊れやすいので、注意して取り扱うべきということを示す。
使用上の注意
・4側面すべての左上もしくは右上に表示することが望ましいが、スペースがない場合は少なくとも2側面の上角に表示すること。

貨物がパレットなどに積まれたときに、2面だと見えなくなってしまうこともあるので、基本的には4面に表示することが推奨されています。国際規格でも左上または右上に表示することとなっています。

No.4 手かぎ禁止

意味
貨物を取り扱うときに手かぎを使用してはいけないことを示す。

手かぎは、穀物が入った袋や木箱に引っ掛けて移動させる際に使用しますが、内容品を傷つける恐れがあり、このマークは手かぎの使用を禁止する場合に表示します。あまりダンボール箱に使用することはないマークです。

No.5 ハンドトラック使用制限

意味
表示している面からハンドトラックを差し込んではいけないことを示す。

近頃は手押し台車が主流になってきましたが、荷物を2、3個運ぶときに便利なハンドトラック。貨物の下に台車を差し込み、てこの原理を利用して軽い力で運ぶことができます。しかし、ハンドトラックを差し込む方向によっては包装が損傷したり、中身が壊れたりしてしまうリスクがあるので、このマークが見える方向からハンドトラックを差し込んではいけません。

No.6 取扱注意

意味 
貨物に衝撃を与えないよう、丁寧に扱うべきということを示す。

この規格の中で、唯一国際規格には規定されていないマークです。規格改定の際には削除するかどうかで審議されたそうですが、多くの企業で採用されているという理由から、現在も規格に残されています。

No.7 フォーク 差し込み禁止

意味
フォークリフトで取り扱ってはならないことを示す。

フォークリフトで貨物を持ち上げると、偏重心で荷崩れや転倒の危険があり、フォークリフトでの荷扱いを禁止する場合に表示します。

No.8 クランプ禁止

意味 
クランプタイプのフォークリフトを使用する際、図示の面でクランプしてはならないことを示す。

No.9 クランプ位置

意味 
クランプタイプのフォークリフトを使用する際、図示の面でクランプしなければならないことを示す。

「クランプ禁止」と「クランプ位置」のマークは一緒に使います。クランプ箇所が作業員にわかりやすいように、4面に2つのマークを入れるようにしましょう。

No.10 転がし禁止

意味
対象貨物を転がしたり、ひっくり返したりしてはならないことを示す。

「『転がし禁止』って、当たり前じゃないか?」と疑問に思う方もおられるかもしれません。しかし、とくに海外では貨物を運ぶための機材が揃っていないところもあります。フォークリフトなどがなければ、荷役は当然手作業。たくさんの荷物をトラックから降ろす際、転がしながら降ろすことも日常的に行われているのです。

No.11 水ぬれ防止

意味 
対象貨物を雨にあたらないようにし、乾燥した状態で保たなければならないことを示す。

水に濡れることで壊れてしまう精密機械や、質が落ちてしまう食品など、さまざまな貨物に使用されています。

No.12 直射日光遮へい

意味 
対象貨物を直射日光にさらしてはならないことを示す。

直射日光にさらされて温度が上がってしまったり、太陽光で劣化が起きたりする場合などに表示されるマークです。

No.13 放射線防護

意味 
対象貨物の中身が、放射線の透過によって劣化または使用不可能になることを示す。

最近のX線検査では、少ない放射線量で中身を確認することも可能になってきました。しかし、なかには放射線にとても敏感な貨物もあります。身近な例では、フィルム。X線で感光してしまうと使い物にならなくなってしまいます。

No.14 上方向

意味 
対象貨物の正しい上向き方向を示す。

使用上の注意
・4側面すべての左上もしくは右上に表示することが望ましいが、スペースがない場合は少なくとも2側面の上角に表示すること。

貨物を梱包する際には、そのままの状態で落ちることを想定し、上側よりも底側に重点を置いて緩衝材を入れられています。そのため天地がさかさまになって落下した場合、貨物の中身が壊れるリスクが高くなるケースに表示されます。その他、こぼれるリスク、もれやすくなるリスクがある液体などにも使用されることの多いマークです。

No.15 温度の制限

意味 
対象貨物を、図示されている温度の範囲内で取り扱わなければならないことを示す。

薬品関係の貨物に表示されることの多いマークです。上側に最高温度、下側に最低温度を記載して使用します。記載は必要がなければ最高温度、最低温度のどちらかでも大丈夫です。

No.16 上積み質量制限

意味 
対象貨物の上に積み重ねることができる最大質量を示す。

貨物の包装が劣化してしまった場合には、数字は作業員の判断により手書きで修正することも可能です。

No.17 上積み段数制限

意味 
同じ貨物を積み重ねる場合、上に積み重ねられる最大積み重ね段数を示す。

使用上の注意
・数字「n」は一番下の貨物は含まない。
・数字「n」は手書きで修正してもよい。

倉庫やコンテナ内での積み上げ段数を制限するために多く使われますが、こちらも貨物の包装が劣化してしまった場合には、数字は作業員の判断により手書きで修正することが可能です。

No.18 上積み禁止

意味
対象貨物の上に積み重ねてはならないことを示す。

デリケートで壊れやすい貨物に使用されます。とくに箱の上部が弱いもの。上にものを載せないようにすることで、貨物を守ります。

上記のほかにも、荷扱い指示マークとしてさまざまなシンボルが使用されています。では規格化されているものとされていないものになにか違いはあるのでしょうか? 前記事でもご協力いただいた「JIS Z 0150 改正原案作成分科委員会」メンバーでもある日本包装技術協会 金子 武弘氏にお話を伺いました。

「この規格を改定する際には、いつも企業や印刷会社などにアンケートを取っているのですが、『このマークを規格化してほしい』という要請までは来ておらず、規格化に至っていないというのが理由ですね。
規格化されている指示マークは、作業者がひと目見て意味がわかるというのが前提です。規格化されていないものでも、運用する企業内・その物流で関わる作業者の間できちんとルールを決めていれば、使用に関しては問題ないといえるでしょう」

注意すべき荷扱い指示マーク

「壊れもの、取扱注意」と「取扱注意」は、どう使い分けたらよい?

実は、No.6の「取扱注意」は、現在JIS規格(2018年改正)のなかでも唯一国際規格には記載されていないマークです。改定の際には削除するかどうかが審議されましたが、このマークを使用している企業が多いこと、海外でもこのマークの意味が通じるだろうということが考慮されて、規格内に残ったそう。

「日本のマーケットは特殊で、たとえばダンボールに少し擦り傷があっても販売店さんで受け取ってもらえないケースがあり、物流品質に対してとても厳しい国で、どちらのマークもよく使用されています。使い分けとしては、No.3のマークは壊れやすい貨物に、それほど貨物は壊れやすくないけれど、丁寧に扱ってほしいというときにはNo.6のマークを使用してもらえればと思います」(金子氏、以下同)

「上積み段数制限」の意味、正しく理解できている?

「上積み段数制限」で記載されている数字は、総積み段数なのか、上に積み重ねられる段数なのか、答えられますか? これは途中から意味が変更になった特殊なマークで、物流現場ではその経緯を知らないために正しく理解できていない人もいるようです。

「当初、JIS規格で使われていたマークでは、nは総積み段数を表していました。しかし、1997年、ISO 780に追加された『上積み段数制限』のマークでは『一番下の貨物は数えない』というものでした。ただ英語の表現が理解しにくかったことから、2015年の改定で『数字”n”は最下段の貨物の上に積み上げられる段数』と明記され、JISでも2018年の改定で修正されたのです。よりわかりやすくするために、2018年の規格改定時に『数字“n”は、一番下の包装は含まれない』という注記を追加しています」

消えた荷扱い指示マーク「火気厳禁」

調べてみると、「火気厳禁」のマークが規格から外されているようですが、なぜなのでしょうか?

「『火気厳禁』のマークは、2018年に規格からは削除されました。海上輸送や航空輸送の国際規定として、危険物輸送の際には『危険物ラベル』を使用するという決まりがあります。火気厳禁は危険物ラベルと混同しやすいシンボルが使用されており、それと勘違いされてはいけないという理由からです。可燃性がある貨物を輸送する際には国際ルールである危険物ラベルを表示してください」

貨物にとっても人にとっても、安全な物流を実現するために、荷扱い指示マークはとても役に立つツールです。記事をお読みいただいて、荷扱い指示マークを表示する側である荷主さん、メーカーさん、そしてマークを見る荷扱い作業にかかわる方々の理解を少しでも深められれば幸いです。