物流リスク管理の基礎と実践〜基礎編〜

2024 1/29
物流リスク管理の基礎と実践〜基礎編〜
目次

世界の物流リスクの現状把握

1. はじめに

読者の皆様は、日々の業務の中で、様々な原因で貨物に損害や損失が発生していることから、貨物の輸送品質に関心を持たれ、本コラムをご覧になっていると思います。今回から「物流リスク管理の基礎と実践」というタイトルで、物流で発生する様々なリスクについて、基礎編として既存の統計を元に損害の原因や品目による特性を分析した上で、実践編として衝撃・振動の対策を中心とした輸送環境の計測について解説していく予定です。

初回である今回は、基礎編として「物流リスクの現状把握(世界)」について説明いたします。

2. リスクの高い損害の原因とは?

物流リスクについて、リスク分析の基礎となる『平均損害額』『発生頻度』を用いて分析してみましょう。

国際物流におけるコンテナ貨物を対象として、1事故当たりの平均損害額と発生頻度について原因別にまとめると、下の図のようになります。

分析表

この図から、平均損害額では「火災・波ざらい」、
発生頻度では「破損・曲損」が一番高くなっています。
リスクは期待損失、つまり平均的な損失見込み額として、

リスク=平均損害額×発生頻度

のように定義することができます。

計算の結果、リスクが高い順に

第1位:破損・曲損
第2位:淡水ぬれ
第3位:抜荷・不着

となり、平均損害額が低いものの、発生頻度が非常に高い原因が上位を占めました。

このことから、物流リスクの中で、いかに「破損・曲損」が重要な課題であるのかということを改めて認識して頂けたかと思います。

3. どうしたらリスクを減少できるのか?

この結果をリスクマネジメントの観点から考えて見ましょう。事故の平均損害額を減らすには、事故が発生した場合の被害の「軽減」が重要になります。
一方、事故の発生頻度を減らすには、原因自体を事前に抑える「予防」が重要になります。つまり、発生頻度が低く平均損害額が高い「火災・波ざらい」は、予防が十分取られていることから、被害の軽減がポイントになります。一方、発生頻度が高く平均損害額が低い「破損・曲損」は、被害の軽減はこれ以上は難しいことから、予防がポイントとなります。つまり、衝撃・振動に対して適正な包装や梱包を行なうといった予防を取ることで、「破損・曲損」のリスクを大きく減少させることが可能となります。

4. まとめ

今回は「物流リスクの現状把握(世界)」について説明し、世界中における物流リスクの中で「破損・曲損」が最もリスクが高いことが明らかになりました。
しかし、使用したデータが、コンテナ貨物の普及期である1979年にジュネーブ国際保険経済研究協会によって発表された、やや古い海外のデータを元にした考察したことに、不満のある方も多いかと思います。残念ながら、筆者の知る限り、これより新しい平均損害額と発生頻度に関する公表データが存在しません。
(データをご存知の方、公表してもよい方は、弊社までご連絡を)

日本の物流リスクの現状把握

1. はじめに

前回は「物流リスクの現状把握(世界)」について説明し、世界中の物流リスクの中で「破損・曲損」が最もリスクが高いことが明らかになりました。

今回は、日本海事検定協会が公表している「輸送貨物の事故情報に関するデータベース」を用いて、
わが国における貨物事故を品目別に原因と発生場所について分析を行ないます。

日本海事検定協会は、海事鑑定業及び国際流通貨物関連の検定業などの業務を行なう第三者検定機関です。
なお、公表されているデータは約3,000件の抽出されたデータであり、前回分析したような発生頻度や平均損害額を把握することはできません。

2. どんな損害の原因が多いのか?

図1:原因が破損等である損害の割合(出典より作成)

全15品目のうち、
輸入貨物では9品目、国内貨物では13品目で、
「破損・曲損・凹損・変形」が最も多い
損害原因となっています。

【図1】は国内輸送におけるデータベースの中で、損害の原因が「破損・曲損・凹損・変形」(以下、「破損等」)である割合を品目別にまとめたものです。この結果、ほぼ全ての品目において、50%以上が破損等が原因で損害が発生していることが分かります。

中でも、「産業機械類」「電子・精密機械」といった精密貨物と
「施設・構造物」「船舶・車両・輸送機器」といった大型貨物において、

破損等が80%以上の損害原因を占めていることから、これらの貨物を扱う際には、衝撃・振動に対して適正な包装や梱包を行なうといった予防を取ることが重要であると言えます。

3. どんな場所で破損等が発生するのか?

図2:破損等における発生場所が輸送中である損害の割合(出典より作成)

全15品目のうち、
輸入貨物では12品目、国内貨物では13品目で、
「輸送中」が最も多い 発生場所となっています。

【図2】は国内輸送におけるデータベースの中で、損害の原因が破損等である場合について、発生場所が輸送中である割合を品目別にまとめたものです。

この結果、ほぼ全ての品目において、40%以上が輸送中において破損等の損害が発生していることが分かります。

しかし、「産業機械類」「電子・精密機械」といった精密貨物と
「施設・構造物」「船舶・車両・輸送機器」といった大型貨物において、

輸送中が最も多い損害原因であるものの、60%以下と他の貨物に比べて低いことから、これらの貨物を扱う際には、輸送中だけでなく、作業中・荷降中・積込中・積替中・保管中といった活動においても予防が重要であると言えます。

4. まとめ

今回は「貨物事故の原因と発生場所」について説明し、わが国における物流リスクの中で「破損・曲損・凹損・変形」が最も多い損害原因であり、その多くが「輸送中」に発生することが明らかになりました。倉庫や物流センターなどポイントで行なわれる荷役だけでなく、ポイントとポイントを結ぶ輸送にも破損等のリスクが高いということは、輸送環境を把握する上で重要となると考えています。

(出典:一般社団法人日本海事検定協会「輸送貨物の事故情報に関するデータベース報告書第二回(2012年度)」、2014年)

世界各国のロジスティクス品質

1. はじめに

前回は「貨物事故の原因と発生場所」について説明し、わが国における物流リスクの中で「破損・曲損・凹損・変形」が最も多い損害原因であり、その多くが「輸送中」に発生することが明らかになりました。

ロジスティクスに関する国際的な評価指標であり、世界銀行が公表している
「国際物流効率性指標」(Logistics Performance Index、以下「LPI」)を用いて、
世界各国のロジスティクス品質について考察します。

なお、世界銀行は、貧困削減や開発支援を目的とした国際な援助機関であり、かの東海道新幹線にも融資を行なっています。

2. LPIとは?

表: LPIスコア上位各国(出典より作成)

LPIは、各国の物流業者やフレイトフォワーダー業者を対象にアンケート調査を行い、「通関、インフラ、貨物発送手配、ロジスティクス品質、貨物追跡、適時性」の6つの評価項目について、5段階評価(最大5,最小1)で評価しており、これまで2007年、2010年、2012年及び2014年の4回の調査が行なわれています。

最新版である2014年の調査では、世界143ヶ国の物流業者やフレイトフォワーダー1,000人を対象したアンケートを行い、世界161ヶ国の順位とスコアを公表しています。

総合スコアの高い順に並べると、右の表のように、先進国、中でも【背景色:黄色欄】のようにヨーロッパ各国が上位を占めていることが分かります。わが国は、全ての調査において上位10位に入っていますが、順位を徐々に下げている傾向が見られます。

3. アジアにおけるロジスティクス品質

図1.2:アジアにおけるロジスティクス品質

「ロジスティクス品質」の項目は、物流業者、フレイトフォワーダー、通関業者におけるロジスティクスサービスの競争力と品質について調査をしています。 アジア域内を対象に、評価項目の中で「ロジスティクス品質」に関するスコアについてまとめると、【図1】のようになります。スコアは、非常に高いわが国を含む東アジアから、非常に低い内陸国が主体の中央アジアまで幅広くなっています。その中で、東南アジアと南アジアにおいて、ここ数年で品質が向上していることが分かります。

近年、注目を集めている東南アジア各国を対象とすると、【図2】のようになります。スコアは非常に高いシンガポール、マレーシア、タイから、非常に低いミャンマーまで幅広くなっています。その中で、インドネシアとカンボジアにおいて、ここ数年で品質が向上していることが分かります。

4. まとめ

今回は「世界各国のロジスティクス品質」についてLPIを用いて説明し、特にアジアにおけるロジスティクス品質の評価を行ないました。LPIでは損失の原因などの詳細な輸送環境を把握することができませんが、現在進出している国と比較して、これから進出を検討している国の品質が高いのか、低いのか、経年的に比較を行なうことができます。

今回までは基礎編として、既存の統計を元に説明してきましたが、次回以降は、実践編として衝撃・振動の対策を中心とした輸送環境の計測の実際について解説していきます。

(出典:世界銀行: Logistics Performance Index, http:// lpi.worldbank.org/ (2014/10アクセス)

著者: 東京海洋大学
渡部大輔(わたなべ だいすけ) 

東京海洋大学大学院
海洋工学系流通情報工学部門 准教授

2006年筑波大学大学院システム情報工学研究科修了、博士(工学)。
海上技術安全研究所研究員、東京海洋大学助教を経て、2011年より現職。
専門は、社会システム工学、物流リスク工学、空間情報工学。

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