
輸送保険の基本と選び方|費用・補償・手続き・現場対策まで完全ガイド
「輸送中の商品破損や盗難といった損害に備えたいが、保険のサービスが複雑で分かりにくい…」
そのようなお悩みを抱える、法人・個人の物流や購買、ECサイトをご担当のお客さまへ。
この記事では、輸送保険(貨物保険/運送保険/海上保険)の概要から、費用の考え方、契約者としての手続き、そして補償対象外となる約款上の免責事由まで、必要な情報を網羅し、わかりやすく解説します。海外から日本国内まで、さまざまな輸送シーンで利用できる知識を整理しました。
また、保険会社や代理店との手続きとは別に、現場で今すぐ利用できるリスク対策ツールもご紹介。貴社の業務と大切な財産を管理し、守るためのヒントが満載です。
輸送保険の概要(目的・補償の基本)

輸送保険とは、お客さまの財産である貨物(物)の輸送・保管過程で、偶然に生じる損害に備えるための保険サービスの総称です。特に貿易などの国際輸送では「外航海上保険」が中核となり、日本国内の配送・一時保管も含めて包括的にカバーする設計が可能です。
補償の基本は「偶然の事故による損害を補填する」という考え方であり、戦争やストライキといった特定の危険については、特約を付帯してサポートするのが一般的です。国際基準のICC(A/B/C)という担保条件が広く利用され、A→B→Cの順に補償範囲が狭くなります(ICC-Aは広範囲をカバーしますが、梱包不良や遅延などは免責です)。
【ケーススタディ:担当者の視点】
以前、海外向け精密機器の出荷で、保険条件の違いを理解せずにICC-Cで契約したことがありました。しかし、納品先倉庫での荷降ろし中に雨濡れの損害が生じ、補償が不十分だったと痛感。この経験から、貨物の性質・経路ごとに条件を見直す業務ルールを策定しました。今では従業員全員が適切な判断を下せるようになり、会社全体のリスク管理意識が向上しました。
各種保険サービスの一覧と違い
2-1. 国内貨物保険(陸上輸送)
日本国内のトラックなどの自動車(車両)や鉄道、航空機、船舶による輸送および一時保管が対象です。火災保険のように火災による損害はもちろん、破損・盗難などの偶然の事故を補償します。高価な商品や壊れやすい物を扱う事業者の方は、免責金額や特約の設計が重要になります。
2-2. 外航貨物海上保険(国際輸送)
海上・航空・陸上をまたぐ国際一貫輸送に適用される保険です。ICC(A/B/C)の選択に加え、戦争危険・ストライキ危険などを必要に応じて特約で付加します。誰が保険契約者(付保義務者)になるかや費用負担は、貿易取引の国際ルールであるインコタームズによって決まります。
2-3. 運送業者賠償責任保険
受託した貨物に対する運送業者の法的損害賠償責任(過失による貨物損害など)をカバーする保険です。貨物そのものに掛ける輸送保険(荷主が契約者)とは目的が異なるため、荷主と運送事業者の双方がそれぞれの立場で備えることで、より安心して取引できる関係性が構築できます。
2-4. 代表的な特約
共同海損の手続きサポート、温湿度異常、荷役中の事故による傷害、再梱包費用など、さまざまなリスクに対応する特約があります。詳細は保険会社のパンフレットなどで確認しましょう。
費用の目安と算出式

輸送保険の費用(保険料)は、下記の基本式で算出されます。見積もり内容を確認・比較する際に、この考え方を理解しておくとスムーズです。
基本式:保険料の支払額 = 保険金額 × 料率
- 保険金額: 国際輸送(CIF/CIP契約)では「CIF価格 × 110%」が商慣習です。これは、万一の際に逸失利益などもカバーするためです。
- 料率: 貨物の性質、航路、季節、特定の危険(戦争など)の有無で変動します。
- 免責金額(自己負担額): 設定すれば保険料を抑えられますが、小規模な損害は自己負担となるため、損害頻度とのバランスを考慮した設計が求められます。
【用語解説】共同海損とは?
船と貨物が共同の危険にさらされた際、全体を救うために意図的に生じた損害や費用を、関係者(船会社・荷主など)で公平に按分負担する制度です。この場合、荷主はGA保証状(共同海損分担金支払保証状)といった金銭的な保証の提出を求められるなど、専門的な対応が必要になります。
契約・手配の流れ

- 計画: 扱う商品の内容、輸送経路、リスク特性を整理します。
- 見積: 保険会社や代理店に、保険金額・補償範囲・免責などの条件を提示し、見積もりを依頼します。
- 申込/証券: 売買契約の条件(インコタームズ)に沿って付保義務者を確認し、保険証券を受け取ります。
- 事故発生時: 速やかに保険会社に通知し、証拠(梱包材、破損した商品など)を保全した上で、保険金を請求します。
よくある落とし穴(注意点)
- 梱包不十分/不適切: 約款上、免責事由となる可能性が非常に高い項目です。従業員への梱包業務に関する指導が重要です。
- 貨物固有の性質・遅延: 腐敗や自然発火、輸送の遅延によって生じる損害は、基本的に補償対象外です。
- FOB/CFR契約の盲点: 危険移転前の日本国内区間は売主のリスクです。必要に応じて輸出FOB保険などでカバーしましょう。
契約不要の現場対策ツール

輸送保険は金銭的な補償ですが、現場ツールは事故の抑止と原因究明に貢献します。例えばショックウォッチ(衝撃検知)やティルトウォッチ(傾き検知)は、箱に貼るだけで荷扱い品質を可視化できるツールです。
- 契約不要ですぐに利用可能
- ラベル効果による丁寧な荷役の促進
- 損害発生時の原因究明や保険請求時の説明資料として活用
よくある質問(FAQ)
Q1. 運送会社の損害賠償だけで十分ですか?
賠償責任保険は運送事業者の過失が前提です。輸送保険は過失の有無を問わず偶然の事故に備えるものであり、両方を利用することでリスク管理はより強固になります。
Q2. ICC-Aなら何でも補償されますか?
いいえ。梱包不良や遅延など、特定の免責事由が約款に定められています。契約者として内容をよく確認することが大切です。
Q3. 保険料の支払額はどう決まりますか?
「保険金額 × 料率」で決まります。料率は貨物、航路、季節、特約の有無など、さまざまな要因で変動します。
Q4. インコタームズと保険契約者の関係は?
CIF/CIP契約では売主が、FOB/CFR契約では通常、買主が保険を手配します。誰がどの区間のリスクを負うか、取引条件ごとに確認が必要です。
Q5. 共同海損と言われたら、誰に相談すればよいですか?
まずは契約している保険会社や代理店に直ちに連絡し、サポートを求めてください。迅速な対応が求められます。
まとめ
- 目的: 輸送保険は、偶然の事故による財産の損害を金銭的に補償するサービスです。
- 費用: 「保険金額×料率」が基本。免責や特約で補償と費用のバランスを最適化します。
- 契約: インコタームズを理解し、契約者としての責任範囲を確認することが重要です。
- 注意点: 梱包不良や遅延は補償されない可能性があるため、現場での対策も欠かせません。
- 現場対策: 専門ツールを利用し、事故の発生確率そのものを低減させましょう。
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参考文献・出典
- 免責の代表例(梱包不良・固有瑕疵・遅延など):日本貿易振興機構(JETRO)Q&A「貨物海上保険で填補できない免責事由」(ジェトロ)
- ICC(A/B/C)の補償範囲の違い:JETRO「荷主としての貨物への保険の種類と留意点」(ジェトロ)
- インコタームズ2020の要点(危険移転・費用分担、DPU):JETRO Q&A / 解説PDF(ジェトロほか)
- CIF×110%・料率の考え方(一般的な説明):企業解説記事(国際物流)(MOL Logistics Group Blog)
- 共同海損の手続(GA保証状等):保険会社の共同海損解説ページ(東京海上日動)
- 国内輸送の環境(2024年問題・人手不足の影響):国土交通省の資料(地方整備局等)(国土交通省 土地・水資源部ほか)
参考情報

監修者:輸送品質.COM(森松産業株式会社) ( 森松産業株式会社 )
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