輸送品質.COMで販売している『ショックウォッチ ミニクリップタイプ』。今回は、ミニクリップを利用して、産業ガス・医療用ガス容器用・転倒感知器『ウォッチディスク』を開発した低温機器販売株式会社の原田順平さん、営業部部長の鈴木一樹さんにお話を伺いました。
『可搬式超低温容器(LGC)』というものを、ご存知だろうか?
簡単にいえば、液化ガスを運ぶ容器のことである。身近な例をあげると、病院の酸素マスク。大きな病院ではLGC容器を保管しており、酸素マスクの酸素は、液化酸素と液化窒素を気化して混ぜて使われる。ほかにも、工場での溶接や食品の劣化を防ぐために窒素ガスが用いられており、その搬送・管理にもLGCが使用される。
安全・安心な容器であっても、安全・安心維持の為には、
正しい取扱いと適切な管理が不可欠
LGC容器が用いられるのは、液化酸素、液化窒素、液化アルゴンなどで、中の液体は約マイナス200℃。気化すると、ガスの容積は700~800倍にも上る。そのため、病院や工場などの大きな現場では、LGCは欠かせない輸送容器だ。
これほど多くのガスが充填されているということは、取扱いにはかなりの慎重さが求められる。正しく管理・取扱いをしないと、大きな事故が発災してしまう。そのため、『高圧ガス保安法』という法規で、製造の許可から検査の時期、貯蔵法まで厳しく定められている。
それでも、少ないながら事故は起きてしまった。
2004年には病院内でLGCの破裂事故が発生した。配送業者が容器の交換作業を完了し、倉庫の外に出た直後、交換した容器が突然爆発し倉庫内が火災となった。このときは軽傷者10名の被害だった。
そして2016年9月10日、横須賀市のガス充填場で、LGC容器の破裂により、従業員1名が命を落とした。そして容器18本が破損、充填場の壁も吹き飛ばされた。昭和26年の法律施行以来、国内で初めての死亡事故だった。
これらの事故が起こった詳しい原因は不明だが、共通点はどちらも「LGC容器に転倒痕があった」ことである。
二度と重大事故を起こさないために、立ち上がった一人の男
事故発生のあと、産業ガス業界では、当然ながらLGC容器の取り扱い方についての意識が高まった。そして「転倒した事が目視で簡単に確認できるものはないか」という声が上がった。
そこで手を挙げたのが、低温機器販売株式会社の原田順平さんだ。
低温機器販売株式会社は、LGC(可搬式超低温容器)のほか、タンクローリー、定置式超低貯槽、蒸発器、低温ポンプ、フレキホース、高圧ガス設備など、産業ガスの運搬装置や駆動装置を取り扱っている総合商社である。同社では、日本化学機械製造株式会社のLGC容器を販売・貸出をしている。日本化学機械製造株式会社は、破裂事故を起こしたLGCとは違うメーカーである。
ここでLGC容器の構造を簡単に説明する。
この容器は真空2重構造となっており、外槽と内槽の間は低温を維持するために、スーパーインシュレーションという断熱法が施されている特殊な魔法瓶である。
内槽は、ネックチューブ(上部サポート)とよばれるパイプ1本で吊られている状態。底部には横振れを防止する下部サポートがついているものの、液化ガス充填時は内槽容器が収縮するため、液化ガスの荷重は上部サポートのみで受けている状態となる。
内槽容器自体の重量は数十キロ、液化ガスを充填すれば百数十キロもの重量になり、この荷重がネック1本にかかってくる。そのため、転倒するとネックにはかなりの負荷がかかることになる。
安全に運んでいる分には問題ないのだが、LGC容器が転倒してしまうと、ネック部分が座屈変形を起こす可能性があり、その状態で使用し続けると、運搬時の振動などにより亀裂が発生し、真空層(外槽と内槽の空間部)にガスもしくは液が流れる可能性がある。破裂事故を防止するため、容器メーカー各社は、内槽容器に2つ、内槽と外槽の間に1つ、計3つの安全弁を設けている。万が一、亀裂が発生したとしても、容器が破裂しない構造だ。
2016年のLGC容器破裂死亡事故の際も、詳しい原因はわかっていない。だが、転倒していたことは確認されている。
そこで原田さんは「LGC容器が転倒したかどうかを外側から確認できる装置」の開発に着手した。開発にかけた期間は、トータルで2年間だったという。
原田さん「当初は、転倒や傾きの履歴を残せる検知シール『ティルトウォッチ』を使用していましたが、ティルトウォッチだとLGCを傾けるだけでも反応してしまうため、LGCが完全に転倒したかどうかがわかりませんでした。
そこで、落下・衝撃の有無がわかる『ショックウォッチ ミニクリップタイプ』を見つけ、再度試すことに。LGCにミニクリップをそのまま取り付けてしまうと、輸送時の振動で赤変してしまう可能性があるため、ネックの真上にある液面計の下に台座を取り付け、そこにミニクリップを貼ることにしました」
ミニクリップは、30MC(反応G値・100~140G)、35MC(75~100G)、47MC(50~80G)、55MC(37~55G)、65MC(25~40G)の全5種類。全種類を試し、転倒 や落下などの衝撃だけに反応するモデルを選定した。
取り付け位置の選定、転倒・衝撃試験、台座をつくるために独学でCADを学んだこと…『ウォッチディスク』の開発は、原田さんにとってすべてが初めての経験だったという。
原田さん「ミニクリップの反応G値の選定にはとても時間がかかりましたし、CADでの設計も初めてだったので、すべてにおいて苦労しました。とくに大変だったのが、LGCの衝撃実験。転倒させて赤変しているかどうかを調べるだけなので、試験自体は簡単なんですが…、LGCは中に液体ガスが入っていなくても、105kgくらいあるんですよ。転倒試験なので、当然何度もLGCを倒すわけです。それを起こし上げるのが本当に大変でした…(笑)」
LGC容器運用時の問題点とは?
LGCは安全上の理由から、各メーカーが「転倒したものは使わないように」と注意を促している。しかし、低温機器販売 営業部部長 鈴木一樹さんは、実際のところ、転倒したものが気づかずに運用されているケースもあると話す。
鈴木さん「LGC容器は、1本40万以上もする高価なもの。一度転倒させてしまうと、最悪なケースだと、容器が破裂して人を怪我させてしまったり、命を落としたり、当然ながらLGCを扱う会社は責任を問われます。法規で5年に一度は検査が義務付けられているのですが、『倒した形跡があるけど、いつ倒したものかわからない』というものもあるのが現状です。
たとえば、従業員が倒してしまったとしても、転倒痕に気づかずに「問題ない」と判断し、報告しないケースも少ながらずあるのではと考えられます。容器の転倒の仕方によっては、外槽の凹みが小さく、注意深く確認しないと発見できないことがあるからです。
そうしたケースの抑止にも、『ウォッチディスク』を役立てていけたら、産業ガス・医療ガス業界全体のレベルアップにもつながるかもしれません」
『ウォッチディスク』を実際に使ったお客さんからは、「容器の外槽チェックがスムーズになった」という声のほか、ウォッチディスクがあることで、LGC容器の取扱う人が、より慎重を期すようになったという。
原田さん「もともと『容器の外側から転倒したかどうかを判断する』という目的で作ったものでした。ウォッチディスクをつけることで、LGC容器をより丁寧に扱ってもらうことができたというのは、製作時には予想しておらず、とてもうれしい反応です。それから、ウォッチディスク自体は利益を生むものではありませんから、購入につながる可能性は低い。それでも製作を許し、温かく見守ってくれた上司の鈴木には感謝しています」(原田さん)
『ウォッチディスク』は、低温機器販売が取り扱っている日本化学機械製造製のLGC容器専用のものだが、「他メーカーのLGC容器にも取り付けられるようにしてほしい」という要望が多く、業界からの期待が高まっている。
ウォッチディスク製品紹介
『ウォッチディスク』
・10セット 44,000円(税込)
LGC容器の液面計アダプター下にウォッチディスクを取り付けるだけで、転倒による衝撃を受けたかどうかを確認することができる。転倒した場合には、衝撃感知シール『ミニクリップ』が赤変するため、外槽チェックの際に転倒したか否かを簡単に判断できる。特許番号第6998075号。
お問い合わせ・ご購入はこちら
低温機器販売株式会社HP
ウォッチディスク取付方法