タイムリミットまで2年を切った…! 「物流2024年問題」に備えておくべきこととは?

2024 1/31
タイムリミットまで2年を切った…! 「物流2024年問題」に備えておくべきこととは?


厚生労働省が進めている「働き方改革」で、企業に勤めている方は、さまざまな変化を感じているかもしれない。

たとえば、工場や事務職などで非正規雇用労働者(いわゆる派遣)を雇っていて、正規雇用者と同じ仕事をしている場合は、「同一労働・同一賃金」といって、雇用形態にかかわらず、待遇差をなくさなければいけない。これも「働き方改革」の施策のひとつであり、社内でなにか対策を始めたという方もいるだろう。

「働き方改革」は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「働く人のニーズの多様化」といった日本の現状に答えを持つべく、1人ひとりが多様な働き方を選択でき、より良い将来の展望を持てるようにすることを目指したものだ。

働き方改革の根幹にあるのが「長時間労働の是正」である。多様で柔軟な働き方を実現させるために、労働時間に関する制度(労働基準法・労働安全衛生法)の見直しが行われた。内容は下記の通り。

時間外労働の上限 
原則・月45時間、年360時間
※例外として臨時的な特別な事情がある場合は、年720時間、毎月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)が限度

 

自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限 
960時間に制限
※将来的には、左の一般則の適用を目指す。
罰則が付くのは、2024年4月から。

左は、労働基準法、労働安全衛生法で定められた「時間外労働の上限」である。大企業では2020年4月1日、中小企業では2021年4月1日に施行された。しかし、「自動車運転業務」などにおいては、時間外労働の上限と“実態”があまりにも乖離しているために猶予期間が設けられ、例外として、今後、右の自動車運転業務における年間時間外労働時間の上限が施行される予定になっている。

トラックドライバーにおいて、時間外労働の上限規制が適用されるその5年後が、2024年4月1日。これによって企業が対処しなければならないあらゆる問題が「物流2024年問題」と言われている。

目次

「物流2024年問題」ってなにが問題なの?

ドライバーの高齢化、若手不足により、長時間労働が常態化している現状において、全産業と比べて「2割長く、2割安い」職業といわれているトラックドライバー。

この法改正により、働く人が増え、働く環境を整えるというのが国の狙いだが、物流2024年問題の一つ目の課題は、運送・物流業者の売上、利益が減少してしまうことである。規制により、ドライバーがハンドルを握る時間が短くなることで、1日に運べる荷物の量が減ってしまうため、運賃を上げなければ当然の成り行きだ。

また、中小企業においては「月60時間を超える法定時間外労働の割増賃金率の引上げ」が2023年4月から義務化される。割増賃金率が25%から50%へ引き上げられるため、人件費も増加する。

二つ目の課題は、労働時間の減少によりドライバーの収入が減少してしまうこと。彼らの離職を防ぎ、収入を維持するためには、物流企業は他の産業と同じレベルの賃金水準を実現することが急務である。

「荷主企業や物流企業がそこに対してどう対策を取るのかというのが、物流2024年問題の要となってきます」と、教えてくれたのは、船井総研ロジ 株式会社の渡辺庸介さん。

船井総研ロジ ロジスティクスコンサルティング部 部長 渡辺庸介さん(左)、ロジスティクスコンサルティング部 竹森亘甫さん(右)

渡辺さん「まず、ドライバーの拘束時間を、運転以外の時間に使うことをやめていかなければなりません。たとえば積み込みの付帯作業、荷下ろしの付帯作業もありますし、待ち時間もそうです。そういう付帯作業の条件を決めているのは荷主さんであり、あるいは受け手である荷受人さんです。荷主さんが荷受人さんに対しても呼び掛けていかないと、なかなか変わらない状況ではないかと思います」

荷主が今すぐ取り組むべきこと

渡辺さん「私たち物流コンサルタントも、いま複数の荷主企業さんを支援していますが、B to B事業の場合は『拠点配置を見直す』ことを推奨しています。拠点を増やし、お客様までの距離が短くなるように見直すのです。そうすると、輸送に対するコストが圧縮できます

また、輸送距離が短くなると、物流会社さんの選択肢が増えてきます。そうすると当然、競争環境も維持できるので、コストも比較できます。『Aという会社が難しくても、Bならばやってくれる』と、選択肢がいくつも出てきます。

ただ、一方で拠点を増やすと、どうしても在庫が増えてしまいます。だからあわせて在庫管理のコントロールを強化していく必要があります。拠点を増やしても在庫は一元管理できるようにきちんと見ておくとか、あるいはその倉庫にどれだけの数になったらどれだけ補充するといったことを決めておくことが大事だと思います。

荷主側としては、少しでも値上げ抑制ができるように、物流会社さんの負担が減るように、変えられるルールはどんどん変えていったほうがよいでしょう。

たとえば、実際の積み込みで起こっている物流会社さんの負担がどういうものがあるのか、実際の現場の声を聞いて改善していく。たとえば、手積みで作業されているドライバーさんもいらっしゃいます。ドライバーさんが荷下ろしや積み込みを行っているとしたら、かなりの負担です。というより、運送契約では本来は車上渡しなんですよ。

荷主さんはこれまでコンペなどを行って物流会社さんを選んできたかと思いますが、これからは物流会社さんも、仕事を選ばないと生き残れない時代が来ます。お互いに良い関係性を保つには、相手の負担を慮ることが必要になってくるでしょう」

物流会社が今すぐ取り組むべきこと

では、物流会社側は、2024年問題にどのような対応をしたらよいのだろうか?

渡辺さん「ドライバーがハンドルを取る時間が短くなることで、売り上げが減ってしまう可能性が高い。そのためには、荷主企業に対して値上げ交渉を考えていかないといけないと思います。場合によっては仕事がなくなることも想定されますから、価格の交渉はその荷主さんとの関係性に応じて行うべきでしょう。

一方で、ドライバーの勤務時間が短くなり、稼ぎが減るとなれば、離職する方も出てくるでしょう。そうなるとドライバーの給料を上げる必要があります。

物流会社さんが生き残っていくためには、やはり最低限、トラック一台を1カ月動かすのに、どれだけの原価がかかっているか、まず自分たちの中できちんと把握する必要があります

人件費、車両維持費、保険料、そして運行三費といわれるトラックを運行する際の変動費用である、燃料費、修繕費、タイヤ費など。運賃を構成するうえで、必要な原価をすべて算出すること。

それを把握したうえで、トラック1台でどれだけの仕事をこなせるのか考えた場合、1個あたり1000円なのか、それとも1個あたり500円なのか、現状維持で問題ないのか、それが見えてくると思います。

単に仕事が欲しいからといって、800円もらえないと運行できないものを、500円で請け負っていたら、のちのち立ち行かなくなってしまう。

そして会社を維持するために必要な経費も含めて、きちんと利益が出るように価格設定を行うことが必要だと思います」

では、値上げ交渉をするとしたら、いつごろから動いたほうがいいのだろうか?

渡辺さん「やはり2023年にはもうその体制にしていきましょうと、全日本トラック協会も推奨していますから、原価把握は今すぐにでも行ってください

そして、荷主側にも物流部門の物流費というものが決まっていますから、いきなりガンと値段を上げるとなると、荷主側も受け入れづらいものです。値上げを少しずつ繰り返していかないと、一定の水準に持っていくというのは、難しいところがあるでしょうね」

また、ドライバーにおいては、現状、厚生労働省が定める「改善基準告示」がある。この基準よりも時間がオーバーしているという場合は、労働基準監督署から勧告が入る可能性がある。まずはこの基準を目標として、ドライバーの労働環境改善を目指したい。

自動車運転者に対する教育・研修用ツール及びツールを用いた改善基準告示等の周知・啓発
厚生労働省HPより、一部抜粋『自動車運転者に対する教育・研修用ツール及びツールを用いた改善基準告示等の周知・啓発』

物流2024年問題においては、荷主・物流企業・ドライバーが、それぞれの立場を理解して、労働環境の改善に向けて協力し合う必要がある。目先の利益も大事だが、いちばんの解決策は個々人の理解があってこそなのではないだろうか。

<プロフィール>
渡辺庸介氏
船井総研ロジ株式会社 ロジスティクスコンサルティング部 部長 エグゼクティブコンサルタント。顧客の物流・ロジスティクスのサポートを行う。得意分野は現場改善、物流子会社評価、物流マネジメント、物流現場センター長教育。物流戦略の再構築、物流コストダウン、現場改善など、幅広ロジスティクスコンサルティングに従事。

<text/ひろの design/川戸口めぐみ>

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