東京・板橋区の閑静な住宅街にある松田技術研究所。輸送品質.COMで扱っている防振パレットや防振台といった防振製品は、この小さな会社で開発されています。驚くべきは、その発想力。松田氏の半生とともに、これまでに誕生したアイデア製品を振り返ります。
Honda時代には、休み時間を使ってドアの開閉試験を自動化
松田氏の前身は、本田技研工業(Honda)。同社に入社して半年、技術部に入ったころ、自動車ドアの耐久試験を任された。ほかの社員が手でドアの開閉をするなか、松田氏が思いついたのはドア開閉の自動化。もちろん仕事中は作業をしなければならないから、自宅で構想し図面を描き、昼休みに会社の工作室で製作した。
松田氏は「小学校からずっと模型工作は得意。キットを買うわけではなく、全部自分で作る」というほどの工作好きだ。そして完成したロボットを“部下”と呼び、“彼”に仕事を任せた。ロボットはたちまち評判になり、その技術を見に全国の本田技術研究所から人が集まってくるほどだったという。
この功績が当時の副社長・入交昭一郎氏の目に留まり、新たに設立されたホンダ用品研究所(現・ホンダアクセス)に配属された。そこで二輪車用パーツなどの開発で活躍し、プロジェクトリーダーにまで上り詰めた。
勉強が全然できなかった小学校時代
ホンダ時代の活躍とは裏腹に、小さいころはまったく勉強ができなかったという松田氏。
「宿題という宿題は、まったく手を付けなかった。宿題をやらないと、先生から殴られる。普通は殴られたくなくて宿題をやるんだろうけど、殴られれば宿題をやらなくてすむという考え方だった」。そう子ども時代を振り返る。
「社会に出てから、自分の好きなことを勉強できるようになって、夢中になった。好きなことしかやってないんだよ」。好きこそものの上手なれとはよく言ったもの。これこそオンリーワンの開発を続けられる原動力なのだろう。ホンダから独立後も、松田氏は宅配専用バイクなどのオリジナル製品を続々と手掛けていく。
たった3日で構想を完成。郵便局員に支持された集配ボックス
松田技術研究所で開発された製品のなかでも、圧倒的な知名度を誇るのが赤色の郵便集配用キャリーボックスだ。「いっぱい積みたいときにはたくさん積めて、荷物がないときにはそれなりの大きさに。そして雨が降っていないときにはフタがいらないボックス」というのが郵政省からの依頼だった。構想期間はたったの3日間しかなく、競合相手は大手企業数社。不利な条件のなかでもアイデアをひねり出し、コンペでは好評を得た。その後郵便局員のアンケートを取り、採用されると約10万台を納入した。
「ものづくりでのこだわりは、自由な発想でオリジナルのものを考えること。絵を描いたり手を動かしたりして、とにかく一生懸命考えるんだ」
JAXAで採用されたオリジナルの防振技術
2008年9月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から声がかかった。「小惑星探査機『はやぶさ』のカプセルがオーストラリアの砂漠に着陸する。このカプセルを安全に日本まで持ち帰りたい」という依頼だった。具体的には、輸送中の振動を1.5G以下に抑えること、オーストラリアからはジープで運び、飛行機で日本まで輸送できることの2点が要求された。それ以外はすべて一任された。
開発・実験に1年以上の月日をかけ、誕生したのがステンレス製の「球状サスペンション」だ。複数の板バネをボール状に組んだデザインにより、上下・前後・左右の全方向へ振動を分散させることができるという仕組みである。2010年6月、はやぶさのカプセルは着陸に成功し、球状サスペンションを使ったはやぶさ回収ボックスで、無事日本までの輸送を果たした。
安全輸送に不可欠な存在となった球状サスペンション
JAXAに採用された球状サスペンションは、軽量で安価、耐久性にも優れていることから、鉄道輸送、精密機器輸送、トラックの防振台など、さまざまな企業からの関心を集め、製品化されてきた。いまや、松田技術研究所の顔ともいえる製品にまで成長した。
ステンレス板ではなくワイヤー状のサスペンションを考案したこともあったが、倍以上のコストがかかってしまう。お客さんがつかない製品では仕方がないとワイヤーは断念した。「球状サスペンションの問題点をあえて挙げるとすれば、これを超えるアイデアが出てこないこと」。それほどまでに、防振性能には自信がある。
「やっぱり基本的な仕様をゼロから考えて形にしているから、ほかの会社には真似できないオリジナリティがうちの強み。それを採用するかどうかはお客さん次第。売れるか売れないかわからないのが、おもしろいでしょ?」。今年76歳を迎える松田氏は、今でも現役だ。
球状サスペンションは、輸送品質.COMで扱っている防振台・防振パレットにも使われている。松田技術研究所の技術力を、ぜひその目で確かめてみてほしい。