お答えいただいたのは…
映像制作会社K社 撮影機材レンタル M様
テレビ局内にある24時間年中無休の撮影機材レンタル
事業内容を教えて下さい。
弊社は、ドラマやバラエティ、ドキュメンタリーなどのテレビ番組、映画、Webやモバイルのコンテンツ制作、DVDの企画・制作・製造、企業向けのビデオやCMの企画制作、イベント実施まで幅広い分野で活動している総合制作会社です。
技術部門では、中継車をはじめとする高度な技術設備、報道の現場を中心に撮影を担うENG取材チームのほか、ビデオ編集・MAなどのポストプロダクション機能も持ち、テレビ番組制作、スポーツやコンサート中継などあらゆる技術のニーズにお応えしています。
我々の「撮影機材レンタル」は、技術部門の一部です。
お客様は一般の方が対象ではなく、主に社内やグループ会社の制作部門に向けて小型カメラや周辺機器・編集機材の貸出を行っております。
もう10年以上のお付き合いだと思うのですが、ショックウォッチミニクリップタイプをご採用いただいた経緯を教えて下さい。
技術部門に「撮影機材レンタル」ができた経緯と関係があります。
かつて、テレビ番組の取材は、ディレクターとカメラマン、アシスタント、ADなど何人ものスタッフで行なっていました。けれど、およそ10年くらい前から制作スタッフ(ディレクター)が撮影から編集までを全部ひとりで行なうようになり番組制作のスタイルが大きく変化してきました。
その背景には、テレビ番組全体で予算削減が進んだこと、撮影に関する技術や専門知識がない制作スタッフでも扱いやすい、小型で軽量なカメラやマイクが普及し始めたことがあります。
低予算で撮影を行う為に、技術スタッフが大きなENGカメラではなくカメラマン1名で撮影が可能な小型カメラを使用する事が増えました。
その後、さらに予算を削減するために制作スタッフから、小型カメラだけ貸してほしいと要望が出てきました。つまり低予算化、機材の小型・軽量化により番組制作スタッフは、技術会社に撮影スタッフ(カメラマンやアシスタント)を発注せず、制作スタッフ自らがカメラを持って取材へ行くことが増えてきました。それをきっかけに、弊社でもレンタル業が始まりました。
カメラに不慣れな制作スタッフへの貸し出しで起こる破損事故
どのような方への貸し出しが多いですか?
「撮影機材レンタル」は24時間営業しておりますので、バラエティ番組、情報番組、報道番組などの様々な番組の制作スタッフに、いつでも貸し出すことができます。
ただ、制作スタッフ(ディレクター、AD)は必ずしも撮影のプロとは限りません。その上、1人で取材内容を考えて、インタビューをして…と番組の構成や演出部分に関することに意識が向いているためプロのカメラマンよりもどうしても機材の扱いが荒くなってしまいます。
そのため、カメラの破損事故は技術スタッフが使用する場合より多かったため、ショックウォッチミニクリップタイプを取り付けて、返却時に赤変していないかチェックするようになったのです。
カメラのレンズは衝撃により故障しやすい
ショックウォッチミニクリップタイプを取り付けているのはカメラだけですか?
かつては照明機材やハードディスクにもつけていました。ハードディスクはSSDに置き換わって必要がなくなったので、今はカメラのみ付けています。
機材の中では、カメラのレンズが一番衝撃に弱いんですよ。外から見てすぐに判断できるようなキズや破損はすぐに故障に気が付きますが、例えば机や床に「ガン!」と強く置いてしまった時の衝撃が原因でレンズ内部にエラーが起きたり故障した場合は、外からではわかりません。そこで、まずは貸出する前の整備、点検ではショックウォッチが赤変していないかどうか必ず確認をしています。ショックウォッチが取付けられていないと何か故障があった場合に「もともと故障していたのでは?」と言われてしまう可能性がありますから、衝撃を受けたかどうか目で確認できて、それをお客様と共有することが大切です。
機材の返却時にショックウォッチの赤変もチェック
ショックウォッチをどのように利用していますか?機材を貸し出す前に注意したりしているのでしょうか?
貸し出す前にショックウォッチについて何か言うことはないですね。お客様から「これは、何ですか?」など聞かれたこともないです。長年使っている方や、赤変させた経験がある方は存在や役割を知っているとは思いますが。
機材が返ってきたときに、受付で「機材が全部揃っているか」「目に見えてわかる損傷がないか」をチェックするときに「ショックウォッチが赤変していないか」も確認します。
ショックウォッチが赤変しているときはご使用状況や衝撃を与えたお心当たりがあるかどうか、お伺いしますが、ほとんどのお客様が「心当たりはありません」とおっしゃいます。
もし現場で衝撃が加わるようなことがあったとしても、お客様自身は気が付いていないことが多くあります。先ほども言ったように、制作の方は取材内容に集中しているので機材にまで意識が届かず、身に覚えがないんですよ。
ショックウォッチが赤変していた場合は、その場でお客様に見て頂き、衝撃が加わると赤く反応する旨を説明します。そのうえで、「これから、より詳しく整備点検し、不具合があった場合は、連絡させていただきます」とお伝えします。
実際に修理出しになるような不具合や故障が見つかることは滅多にないですが、事前にショックウォッチの赤変をお伝えしているので、制作スタッフ間で機材の使用状況を確認して頂けることもあります。もしも修理出しとなり、修理費のご請求が発生してしまった場合にも、ご了承を頂きやすくなります。
衝撃によるカメラの破損事故はどのようなときに起こりますか?
持ち歩いている時にどこかにぶつけてしまったり、ロケ車から出るときに不注意で引っ掛けてゴロゴロと
落としてしまうとかカメラを安全でない場所に置いたまま、その場を離れた時に、別の通行人に蹴られてしまったり、足場の悪い現場に取材に行って転んでしまったり…。また、三脚の取り扱いに不慣れなお客様が、三脚に載せたつもりが確実に取付けできておらず、三脚からカメラが落下するような事故、カメラを載せた三脚ごと転倒する事故などがあります。
技術スタッフに貸出する場合は、機材の扱いに慣れているので心配はないのですが、制作スタッフの方は、演出的要素や取材内容に意識が向いているため、機材に対する意識が薄くなってしまうことがあり破損事故に繋がってしまうことが少なからずあります。
ただ、取材に集中して欲しいため、貸出前に雨天時の注意や操作方法をレクチャーすることはありますが、ショックウォッチについての注意喚起はほとんど行っていません。注意喚起をやりすぎることで、制作スタッフを萎縮させるようなことはしたくないからです。
ハードディスクでは注意喚起を
過去には、編集時に利用するハードディスクにもショックウォッチミニクリップタイプを貼っていました。
ハードディスクは編集スタッフが持ち歩く際にうっかり落としてしまう事故が起きていたんですよ。落としてしまったり、どこかにぶつけて衝撃が加わると、映像データが飛んでしまうことがあります。「(貸出した) ハードディスクに保存した映像が見れないのですが…」とお客様から報告があり確認してみるとショックウォッチが赤くなっているという事も時々ありました。
HDD(ハードディスク)は物理的に回転する円盤に磁気でデータを読み書きしているため衝撃による故障リスクが高いのです。落下させたり振動させたりすると、データを読み書きするディスクやヘッドが故障し、データが消えてしまうことがあります。一方、現在使用しているSSDは記録媒体がフラッシュメモリで、物理的に動く部分がないため、衝撃にも振動にも強いため、ショックウォッチミニクリップタイプを貼っていません。
ハードディスクには、ショックウォッチの下に、さらに注意喚起のシールも貼ってました。カメラと違って貼れるだけのスペースがあったということもあるのですが、大切な映像データが飛んでしまうと取り返しがつかないため、取り扱いには十分注意して欲しいという理由があったからです。
【編集後記】
撮影機材レンタルには、現場で活躍していた元技術スタッフが配属されています。その為、カメラに不慣れな制作スタッフに初歩的な操作指導を行うこともしているそうです。以前利用していたハードディスクには注意喚起のシールを取り付けておく一方、カメラに関しては、制作スタッフが取材に集中できるよう事前の注意喚起は行なわずに、返却時の故障リスクの確認のみにとどめるなど、現場で機材を使用するひとへの配慮が印象的でした。